深夜、川沿い

5月の上旬に君と夜の川沿いを歩いた。
程よく酔っ払っていたはずなのに夜の風はまだ容赦無く僕らの体を冷やし、「寒い!」「寒い!」と語彙力をなくしたように同じ言葉を繰り返してポケットに手を突っ込んで肩を縮めた。

酔っ払っているとなんとなく歩きたくなるのはどうしてなのだろう。
君と何処までもなんの話をするわけでもなく、あてもなくただふらふらと強いて言うなら時間の無駄遣いのような、けれどそれはとても貴重な人生で忘れられない一コマになりそうな時間でついつい「少し歩くか」なんて調子に乗るんだ。

川風が容赦無く僕らの体を叩きつけてきて変な悲鳴が出たりする。
「無理無理無理、帰ろう、また飲もうぜだめだよこれ」なんて君は笑ってそれでも半歩前を歩いているんだから歩きたいのか帰りたいのかまるでわからねぇじゃねぇかなんて心の中で悪態をつく。

「帰ったら焼酎だな。ああでも熱燗も捨てがたいよなぁ」
「明日に響くからやめておこうぜ」
「おまえいつからそんなに立派になっちゃったんだよ」
いつの間にか図体だけ大きくなってしまった僕たちはいつだって隣り合って歩くと中学校の下校の道でくだらない下ネタを話してゲラゲラ笑っていた頃に戻ってしまう。
ジュースが酒になった、学生服がスーツになった、お小遣いが自分たちで稼げるようになった。
他にも社会に出て身につけたものはたくさんあるはずなのに君が隣にいると具体的に何が変わったんだかまるでわからなくなってしまう。

僕が君が結婚なり何なりしたら関係性が変わってしまうのかななんてふと思う。
多分、会う頻度は減るんだろうけど君はいつだって飄々と僕の前に現れてどうしようもない話を繰り返すのだろうなと想像しただけで少しだけ笑ってしまった。
だって僕が結婚したってそうは変わらないだろうなとしか思えないし。

「おい、もう帰ろうぜ!!オレ無理!!!無理無理!お前んちでいいだろ?この前飲んだ焼酎残ってんじゃん!?」
いつだって僕は君の勢いに負けてしまっていいよって笑うのもどうかと思うのだけれどそれが楽しいのだから仕方ない。
「お前3時には帰れよ?」
そうは言っても君は5時ごろまで居座って3時には既にウトウトし出して寝るだろう。
まーたお前んちで寝ちゃったじゃん!なんて慌てて帰っていく姿がありありと思い浮かぶ。

友情がいつまで続くのだろうと考えた時に、幾つになってもくだらない話をし続けられるまでなのだろうなと思った深夜、川沿い。